Go on and Go on



「なあバニー、どうして結婚しなかった?」
「唐突ですね」
バーナビーは虎徹のグラスにビールを注ぎながら、応えた。
「だって、お前は両親を早くに亡くして、ずっと一人だったじゃねえか・・・ 家庭を作ろうとは思わなかったのかよ?」
「こればかりは、僕一人でどうにかできることじゃありませんよ」
「お前がその気になりゃあ、落ちない女はいねえだろ」
「その気になれなかったってことでしょう」
「なんで?」
「なんでって・・・まあ、しいて言えば、初恋の人が忘れられなくて、というところでしょうかね。月並みですが」
「初恋?へえ、お前フラれたのか」
「さあ・・・どうなんでしょう」
「どうなんでしょうって・・・お前、ちゃんと告白したのかよ?」
「いいえ」
「いいえって・・・未だに引きずってるくらい好きだったんだろ? なんでちゃんと相手に言わなかったんだ?」
「どうして言わなければならないんです?」
バーナビーから逆に問い返されて、虎徹は絶句した。
「告白って、ただの自己満足ですよね。 告白された方からしたら、テロですよ。 まったくそんな対象になりえない相手からいきなりそんなこと言われたって、対応に困るだけでしょう。 次からどんな顔して付き合えばいいのか分からない。
なまじ、好意を持ってる人からだったらなおのこと。 拒絶するのも、今までの関係を全て壊すことになるから、ためらわれるだろうし・・・ ただの迷惑行為じゃないですか」
「お前にしちゃあ、ずいぶんと弱気じゃねえかよ。 相手も同じ気持ちだったらって思わない?」
「もし、そうだとしても、迷惑にはかわりないですよ。 だって、新しい恋をするということは、かつて愛した人を裏切ることになるんですからね。 後ろめたい思いをさせることになる・・・
だから、僕に言うべき言葉など、何もないのです。 いいえ、始めから、僕は何も言う必要なんてない。
だって、僕が欲しいのは、言葉でも約束でもない。
僕が望んだのはただ・・・その人にふさわしい人間でありたい。 その人から必要とされ、信頼される人間でありたい。
一緒に笑って泣いて、時にはケンカしたっていい。 それでも、困難な道をともに歩み、誇りある仕事ができたなら・・・それが僕の願いだったから」
「でも、それじゃあ淋しいだろう。 自分の気持ちを誰にも伝えないままで・・・それじゃ一人ぼっちのままだ」
グリーンアイズがまっすぐに虎徹を見つめてくる。
そこには虚勢も諦観もない。ただ痛々しいほどにまっすぐな光だけがあった。
「亡くなった奥さんみたいに上手には、あなたを支えられなかったことは分かっています。
でも、僕なりに努力してきたつもりです。 たとえNEXT能力がなくなっても、死ぬまでヒーローを続けてやる――あなたがそう言った時から。 あなたの覚悟を知った時から、僕はあなたの相棒にふさわしい人間でありたいと願い、努力してきた・・・」
「うん、知ってる。バニーが有能で真面目で努力家で・・・俺にはもったいないくらいの、最高の相棒だってことは」
テーブルに頬杖をつきながら、グリーンアイズを見つめ返すと、バーナビーはにっこりと満面の笑みを浮かべた。
「ご理解いただけているのなら、結構!
今でもあなたはこの街のヒーローで、僕はあなたの相棒だ。
つまり、僕は僕の望んだ未来にいるってことですよ」
若いころから変わらない、得意げな表情を見せると、逆に虎徹に問い返してきた。
「虎徹さんは?あなたこそ、再婚しなくてよかったんですか?」
「楓が一人前になるまでは、そんなこと考えられねえと思ってたし。そもそも、俺はお前と違ってモテねえしな」
「そうですね」
「だっ、そこは『そんなことありませんよ』だろ?」
「ふふっ」
「別にくやしくなんかねーからな。 たくさんきゃーきゃー言われりゃいいってもんじゃねえんだから。 俺は自分が惚れた相手からはモテたから、それでいいの。
生涯にたった二人だけの愛した人に」
虎徹がじっと見つめると、バーナビーは目を見開いて、次の瞬間チャーハンを喉に詰まらせて咳こんだ。
ははっ、さっきのお返しだ。
「ほらバニー、水」
虎徹に差し出されたグラスをあおって、バーナビーはようやく息ができるようになった。
「・・・あなたって本当にずるい人だ」
そうだよ、オジサン――もとい、今はもうおじいさんか――はずるいのだ。お前より長く生きてる分だけな。
お前がいくら賢くて有能で呑み込みが早くても、生きてる年数、それだけは俺を超えられない。
俺にとって、お前はいつまでも可愛い子ウサギちゃんのままだ。
バーナビーは恨みがましい目で見つめてくる。
そんなグリーンアイズを黙って見つめ返してやったら、向こうは困ったように目をそらしてしまった。
「でもなバニー、俺はバカだからさ。 はっきりしたものがないと分からないんだ。
お前はもう一人じゃない、おれの家族だと・・・ お前がちゃんと幸せだっていう証拠がほしいんだよ。
バニー、お前にもっとワガママ言ってほしいんだ」
バーナビーは困った顔をして、うつむいてしまった。
虎徹は黙ってビールを飲む。バーナビーが沈黙に耐えられなくなるまで待つつもりだ。
「・・・だったら」
案の定、バーナビーの方がこらえきれずに小さな声を上げた。
「だったら?」
虎徹が促すと、彼は顔を上げた。
その表情を見て、まるで泣きそうな子供みたいだと虎徹は思った。
バーナビーは顔を真っ赤にして言った。
「みんなから呆れられるくらい長生きして下さい。
そして、僕が皺くちゃのおじいさんになっても、バニーと呼んで下さい。
こんなふざけた名前で僕を呼ぶのは、あなただけなんですからね・・・」




目を開くと、まず見えたのは白い天井だった。
その瞬間、虎徹は自分が夢を見ていたのだと悟った。
視界の隅に、年下の相棒の顔が見えた。若く美しい、見慣れた顔が怒っている。
理由は分かってる。
こいつをかばって、こうして病院の世話になるはめに陥ったからだ。
「虎徹さん!あなたという人は・・・!!」
ベッド脇の丸イスに座ったバニーは、膝の上に置いた拳を震わせている。
そんな怖い顔して怒るなよ、バニー。
いくら怒られても、こればっかりは直らない。
ただでさえ、考えるより先に動くたちだ。
目の前で、自分の大事な人間が危険にさらされたら、自分の安全確保なんてふっとんでしまう。
直せと言われても困る。考えてやってるわけじゃないんだから、直そうと思って直せるもんじゃない。
・・・もちろん、バニーが同じことをしたら俺は絶対怒るけどな。
「どうしていつも無茶ばっかりするんです! 自分のミスくらい自分で背負う覚悟はできています! あなたが余計なマネをする必要なんてないんだ!!
僕なんかをかばって、こんな怪我をして・・・ このまま目を覚まさなかったらどうしようかと思っ」
そこから先は声にならなかった。
ぼろぼろと涙があふれて、頬をつたう。
バニーは俯いて、嗚咽を押し殺している。
――怒ったり泣いたり忙しいなあ、俺の相棒は。
「泣くなよバニー」
「・・・泣いてなんかいません。 どうして僕があなたなんかのために泣かなくちゃいけないんです」
まったく素直じゃないんだから。
「心配すんな。俺は長生きするんだから。
みんなに呆れられるほど生きて、お前がよぼよぼのじいさんになってもバニーと呼んでやるんだから」
「・・・いつまで僕のことバニーと呼ぶつもりなんですか。 いい年してバニーなんて恥ずかしいから止めて下さい」
「何言ってんだ。いくつになっても、お前はバニーだ。俺は死ぬまでバニーと呼ぶぞ。
ワイルドタイガーの相棒はバニーと決まってるんだから。 俺たち、タイガー&バニーだろ?」
俺が笑うと、バニーは目を真っ赤にしながら、むすっとして、
「そんなコンビを組んだ覚えはありません」
ときっぱり否定してきた。
「っだ!そりゃねえよ、相棒」
我ながら情けない声を上げると、目の前の若者の表情が柔らかなものに変わっていった。
「タイガー&バーナビーですからね、虎徹さん」
うん、そうだ。お前が隣にいてくれたら、俺の心は決して折れない。
たとえNEXT能力がなくなったって、ヒーローを続けてやる。
いつまでも、お前の信頼と尊敬に足るヒーローでいよう。
これからもよろしくな、相棒。
俺たちの物語はまだまだずっと続くのだから。

End

(蛇足)
未来の話・・・と見せかけておいて、夢オチ。
でも、どんな未来でも、言葉や約束なんかなくっても、二人はずっとつながってると思うの。
ということで、「好き」とか「愛してる」とか直接的なセリフを言わせない話にしたかったのでした。



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