You are my destiny


「わっ」
突然、天地が逆転し、バーナビーは悲鳴を上げた。
膝裏を掬い上げられ、虎徹の肩に、まるで荷物みたいに抱えられている。
「ちょっと下ろして!下ろしてください!」
「暴れるなよ、バニー。ほんっとに足長くてムカつくな」
虎徹はじたばた暴れる若者を肩に担いだまま、勝手知ったる他人の家とばかりに進んでいく。
「よいしょっと」
唐突に天地が戻った。
放り投げられたと思ったら、ボワンとスプリングが衝撃を吸収してくれた。
ベッドの上だった。
「今夜はとことん話そうぜ、バニーちゃん」
「話すことなどありません」
「意地張るなよ」
むんずと急所を掴まれて、バーナビーは思わず悲鳴を上げた。
「お前なら、イイことしてくれる女の子なんていくらもいるんだろうけどさ。
コイツのことは、男同士のが分かるよな。
どうしたら気持ちよくなるかってことは。
こればっかりは、女には分からない」
「はあっ!?」
「お、もう堅くなった。さすが若いなー」
「ちょっと、なに考えて・・・ううぅ」
「気持ちよさそうだな」
「 なにやってんですかっ!このヘンタイ・・・!」
「ほれほれ、素直になれって」
「ううう・・・」
「お、素直になってきたか?」
普段はミルクのように白い頬に赤みが差してきた顔を、虎徹が覗きこむと、 潤んだエメラルドグリーンの瞳と目があった。
「・・・いい加減にしてくださいよっ!!」
「おぶわあっ!!」
蹴り飛ばされた虎徹の体がベッドから吹っ飛んで、寝室の端まで転がり、壁にぶつかってようやく止まる。
「ちょ、おま、今本気で蹴ったろ!!」
「・・・ハンドレッドパワー使われなかっただけ、ありがたいと思いなさい・・・」
「そんなん使われたら、怪我くらいじゃすまねえっての。あーいってー」
虎徹が立ち上がると、バーナビーはベッドの上を芋虫みたいに這いずっているところだった。
すぐさまベッドから飛び降りて、寝室から逃げ出すつもりだったのだろうが、 あれだけ勃ち上がってしまっては、歩けっこない。
「ほーら、観念しろ」
虎徹はベッドに飛び乗って、バニーを上から見下ろした。
「・・・う」
バニーが睨んできた。
でも、その顔は泣きそうだ。
ちょっとからかい過ぎたか・・・と反省しつつも、もう少し苛めてやりたい気持ちの方が最終的には勝った。
普段、上から目線で説教される立場に甘んじているおじさんとしては、 めったにない反撃のチャンスだからな。

虎徹の手が伸びてきた。
下半身には力が入らず、逃げられない。
バーナビーは全身を硬直させて、ぎゅっと目をつぶった。
「・・・?」
抱き寄せられて、頬にキスされた。
父親が子供に与えるように。
ぽんぽんと背中を暖かな手で叩かれた。
唐突に思い出した。
この温もり。
毎晩、父さんがおやすみのキスをしてくれた時のもの。
毎朝、母さんがおはようのキスをしてくれた時のもの。
ずっと忘れていた感覚が、今、鮮やかに甦った。
目が熱い。視界がぼやけてよく見えない。
「・・・バニー泣いてるのか」
「そんなわけない・・・」
どうして涙が止まらないのだろう。
自分で自分の感情がコントロールできない。
一体どうしてしまったんだろう、自分は。
この人の前では、泣いてばかりだ。
四歳の時に両親を失って以来、他人に涙を見せたことなどなかったのに。

ベッドの上にぺたりと尻をつき、ほろほろと涙を流しているその姿は、まるで子供だ。
いつものツンと澄ましかえった表情は消えうせ、あどけないと言ってもいいほどだ。
何でもソツなくこなす、賢くて有能な若者の中には、大人になることができないままの子供が今もいる。
まだ死の意味すら分からない幼い時分に、目の前で両親を殺され、涙を流すこともできず、 呆然と立ち尽くしたままの子供が。

目の前の子供が消え入りそうな声で呟いた。
「・・・もう僕に構わないで」
「バニー?」
「あの時、僕があなたに頼ったせいで、あなたを巻き込んでしまった・・・
もうあんなことはしたくない」
「あれはお前のせいじゃねえだろうがよ」
青年はふるふると首を左右に振った。
「僕は一人で生きていかなきゃならなかったのに。誰かを巻き込んではいけなかったのに。
一歩間違ったら、あなたの家族からあなたを奪うことになっていた・・・
もしそうなっていたら、僕はあなたの家族に償いのしようがない。
家族を失う悲しみは、誰より僕が知っているのに・・・」
「うちの家族の心配までしてくれるのはありがたいけどな。
バニーは自分が死んで悲しむ人間が誰もいないと、本気で思ってる?
お前の幸せを願っている人間はいない、と」
「・・・?」
「その顔は本気で思ってるんだなあ。
はあ〜・・・これだから、うさぎちゃんは」
虎徹は再び、バーナビーを抱きしめた。
「早く大人になれよ」
「子供扱いしないでください」
ごしごしと拳で涙をふき取ったバーナビーが睨んでくる。
そんなバーナビーの耳元で虎徹は囁いた。
「おれは死んだりしねえよ。
あの世に行ったら、友恵のやつに来るの早すぎるって叱られちまうわ。
何しろ、手のかかる子供を二人もこっちに残してるんだからさ」
「二人?」
「一人は九歳の女の子だし、もう一人はナリは一人前だが中身はガキのままの二十五歳児だしな」
「・・・二十五歳児って誰のことです?」
バーナビーがきっと睨んできて、上体を離しかけたが、虎徹に抱き寄せられる。
「まったく一人にしといたら、なにしでかすか分かったもんじゃない。 ヒヤヒヤするわ。危なっかしくて見てられねえよ」
再び、虎徹に頬にキスされた。
「はい、お返しのチュウは?」
「なに言ってるんですか」
そんな一方的な催促されても、応じる義理なんてない。
「じゃあ、素直になれるように、もっと可愛がってやろうか」
「やっやめてください!」
バーナビーは先ほどの下半身のうずきを思い出して、とっさにわめいた。
「じゃあ、ほら」
仕方なく、差し出された虎徹の頬に、口唇を寄せた。
軽く触れてすぐさま離れようとしたのだが――
急に虎徹が顔を動かした。
思いっきり口唇にぶつかった。
しかも、両手で顔を押さえられて、離れるのを許してくれない。
「んぐぐ・・・」
力勝負が続くことしばし。
ようやく許してもらえて、バーナビーはやっと呼吸することができた。
「バニー、お前、キスする時、息止めてたら苦しいだろー」
虎徹がけらけら笑っている。
「しかも、何で口あけねえんだよ?ものすごい力で噛み締めたりして。舌入れられないじゃん」
「舌あ!?」
ようやく息が落ち着いたところで、虎徹の言葉に驚愕する。
「そんなもの入れませんよ!気持ち悪い!」
真っ赤になって怒鳴る若者に、虎徹がますます楽しそうに笑う。
「バニーをからかうのはおもしろいなー」
――本当に最低だ。このオジサンは。
「ほんと、バニーときたら、お子ちゃまなんだから」
「だから、子供扱いしないでください!」
「いーじゃん、子供で」
「よくありません!」
「子供は甘えるのが仕事、無条件に愛されるのが仕事だ。
お前、どっちもできねえだろう?」
「必要ありませんね」
「なに言ってんだ。大事なことだぞ。
愛されたことがなかったら、愛し方が分からない。
いざ運命の人に出会った時にどうすんだ」
「・・・余計なお世話です」
「宿題は子供のうちに終わらせておけ。おれも手伝ってやるからさ」
虎徹は、満面の笑みをバーナビーに向けた。
そうして、すぐに、
「うん、おれ、今いいこと言ったよなー」
自己満足に浸っている。
――まったく。
あなたは分かっているのかな?
運命の人。
人生を変える存在を運命の人と呼ぶのなら。
僕はもう、出会ってしまった。
「ん?なんだ?おれの顔に何かついてる?」
「・・・別に」
虎徹に言われて、慌ててそっぽを向いた。
「よーし、じゃ、一緒に寝るか!」
「はあっ!?」
虎徹は有無を言わせず、バーナビーを抱きしめたままベッドに倒れこむ。
ぎゅうと抱きしめられると、口惜しいけれど、ほっとする。
僕のことを、愛し愛されることを知らない子供だと言うのなら、教えてほしい。
それが一体どういうものなのかを。
バーナビーは、虎徹の胸に頬を預けて、目を閉じた。

To be continued...

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(蛇足)
この話は、23話までしか見ていない段階で思いついた内容なので、 24話でおじさんの死んだフリが出てきた時、 この話の最初の部分を変えようかなと思ったんですが。
(この話は最終回の後、という設定なんで、こないだ死んだフリされたばかりで、 またすぐにひっかかるか?普通ないよなーという意味で)
うん、と腕を組んで考えること数秒。
結論。バニーなら、ひっかかるな。
バニーちゃんは、おじさんの死ぬ死ぬ詐欺になら、何回でもしょうこりもなくひっかかるな。
と思ったので、そのままにすることにしました。




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