初☆体☆験



トイレから部屋に戻ると、なんだか歌い始めた頃と雰囲気が違っていた。
なんだかむさ苦しい印象だ。
それで気付いた。
「なんだ、他の連中は帰ったのか?」
最初八人いたはずなのに、今は自分を入れて四人しかいない。
「ちょっとタイガー、あんた、何時間トイレ行ってんのよ」
ファイヤーエンブレムが呆れた顔でこちらを見ている。
「それが、部屋出たら、戻ってこれなくなっちまってさー。
しかも、廊下で意外な人に会っちゃったりして」
「意外な人?」
「司法局のお役人の。ユーリさんとかいったっけ?」
「彼がカラオケ?似合わなーい」
キャハハっとファイヤーエンブレムが笑い出した。
ロックバイソンは気持ちよく熱唱中で、バーナビーは座った目で分厚いカラオケ曲目リストのページをめくっていた。
「他の連中は帰った?」
「ブルーローズとドラゴンキッドはとっくに帰したわよ。保護者のみなさんが心配する時間になる前にね。
スカイハイはいつものパトロールに出かけたわ。
ついでに、潰れちゃった折紙も連れて帰ってもらって。
じゃ、あんたも戻ってきたことだし、今日はお開きにしましょうか」

送る送るとしつこく迫るファイヤーエンブレムに、ロックバイソンがたじたじになっているのは 見えていたが、虎徹としては、一人でさっさと歩き出した若者の方が心配だった。
「一人で帰れます」
そう言う顔は、一見、いつもと変わりない。
少し頬が紅潮している程度だったが、
「ちょっ、お前、そっちじゃねえだろ!」
年下の相棒は、言ったそばから、自宅とは正反対の方向に歩き出していく。
やっぱり、酔っているらしい。
虎徹は慌てて後を追いかけた。
バーナビーは酔っ払いとは思えないほど確かな足取りで、 迷いなく進んでいく。
まるで、よく知った土地のように。
やがて、たどり着いたのは、公園だった。
ベンチに腰を下ろすと、寝ようとするバーナビーに、虎徹は慌てて駆け寄る。
「こんな所で寝たら凍え死ぬって!家に帰るぞ」
「イヤだ。ここが僕の家だもの」
子供みたいにダダをこねる。
「なに言ってんだよ。
お前の家は、とんでもなく眺めのいい高級マンションだろうがよ」
「違う。あの木・・・寝室から毎日見ていた。
この匂い・・・夜の匂いだって母さんが教えてくれた」
「・・・もしかして」
子供の頃・・・まだ両親が生きていた頃住んでいた家の場所ってここ・・・?
「・・・しょうがねえな」
虎徹は諦めた。

「ん・・・」
目を覚ますと、見知らぬ天井。
ここはどこだ・・・?
半分まどろんだまま、寝返りをうつと、目の前に男の顔が現れた。
「うわっ!!」
「・・・んん?バニー?起きたのかあ?」
虎徹が目をこすりながら答えてきた。
「え?どうして、あなたが?ここは・・・?」
「おれの部屋だよ。
ゆうべのこと、覚えてねえの?」
「ゆうべ・・・?」
みんなでカラオケをして。随分アルコールが入ったと思う。
自宅に帰るときの記憶がない。
「お前が自分ちに帰らないから、うちに連れてきたんだよ。
う〜頭いてえ。飲みすぎたか・・・?」
バーナビーはとろんとした目の虎徹を見ていたが、ふいに、その手を額に乗せた。
「虎徹さん、すごい熱じゃないですか!」
「へ?そうお?昨日、長いこと外にいたせいか・・・
バニー、お前は?」
「僕は大丈夫ですよ」
「同じ時間外にいたのになあ・・・やっぱり若さか?
まあいいや。とりあえず、お前が元気でよかった・・・」
「ちょ、ちょっと虎徹さん!救急車呼びます?」
「んな大げさな。薬飲んでおとなしく寝てりゃ治るって。薬なら、こないだの残りがまだ・・・」
立ち上がろうとするが、ふらふらしていて足もとがおぼつかない。
「僕が取りますから、虎徹さんは寝ていて!
薬、どこです?」
「そこの引き出しの中」
バーナビーは市販の風邪薬を取り出して、虎徹に渡したが、
「あ、ちょっと待ってくださいね。今、水もってきますから」
台所らしき場所に向かう。
食べた後の食器が無造作にシンクに置かれたままになっていた。
ゴミ箱はフタがちゃんとしまらないほどにいっぱいになっている。
典型的な男の一人暮らし。
バーナビーはちょっと眉をしかめたが、今はそれどころじゃない。
とりあえず、シンクに置きっぱなしにされていたグラスを手に取り、ちゃっちゃと洗うと、 水を入れて虎徹のところに戻った。
「ん、サンキュ。じゃ、おれは寝るわ。お前も帰れ」
虎徹は薬を飲むと、毛布にくるまって丸くなった。
「・・・ええと」
帰れと言われても、こんな重病人を一人残しては帰れない。
でも。
――こういう時ってどうするんだろう?
四歳の時に両親を亡くして以来ずっと一人で生きてきた。
今まで誰かの看病なんてしたこともなければ、されたこともない。
ともに暮らす人間なんていなかった。自分が具合いの悪いときも一人でどうにかしてきたのだ。
他人の世話なんて、どうしていいのか、まるで思いつかない。
ベッドに目を向ければ、虎徹が真っ赤な顔をして額に汗をかいている。
「・・・とりあえず、何か冷やすものを」
バーナビーは、タオルと水を求めて立ち上がった。


つづく

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