初☆体☆験


週末をはさんで、出社する頃には、虎徹はもうすっかりいつもの調子を戻していた。
子供の頃から体力には自信がある。
バーナビーを見つけると、朝の挨拶もそこそこに、
「バニー、看病してくれたお礼に今日はおれが手料理ごちそうしてやるからさ。
お前の家行っていい?今夜予定ある?」
「特には・・・」
結構です、といつもの調子で一刀のもとに切り捨てられるかと思ったら、意外にも曖昧な返事がかえってきた。
これなら、押し切れる。
「じゃ、行くからな!決まりな」
「はあ」
「何食いたい?チャーハン?チャーハンか?チャーハンがいいよな?」
「・・・それしか作れないんですね」
「いやまあ」
「別に何でもいいですよ」
バーナビーはいつものクールな口調で答えた。

会社を出ようとすると、人事部の女の子に声をかけられた。
「鏑木さん、18時から定期健診の予約が入ってますけど」
「あ、すんません、急用ができたので、別の日で。また連絡しますんで」
隣で聞いていたバーナビーは驚いて声を上げた。
「虎徹さん、ちゃんと検査受けて下さい」
「いや、今日はお前に手料理ごちそうするって約束してるし」
「そんなの、いつでもいいじゃないですか」
「そうはいくか。お前がおれの誘いを断らないなんて、100回に1回あるかどうかだからな!
これを逃したら次はいつになるか・・・」
「・・・分かりました。でも、ちゃんと次の予約入れてくださいね。
このまますっぽかしたりしたら、ダメですよ。
僕と違って、あなたには、あなたの帰りを待っている家族がいるのだから。
あなたに何かあったら、どんなにたくさんの人が悲しむか・・・
自分の体を大事にしてください」
「・・・お前、本気でそう思ってるのか?」
「本当に、僕のこと、どれだけ人でなしだと思ってるんですか。
これでも僕だってあなたのこと心配してるんですからね、少しは」
少しはって。
いや、今突っ込むべきはそこじゃなかった。
「いや、そうじゃなくて・・・
お前は自分に何かあっても悲しむ人はいないと・・・そう思ってるのか?」
「は?」
バーナビーのきょとんとした顔を見て、はあ、と虎徹はため息をついた。
「まったく、どうしておれが高熱出すハメになったと・・・っとと」
慌てて自分の口を押さえる虎徹に、バーナビーがじろりと目を向けた。
「なんです?」
「なんでもねえよ」
「教えてください。ちょうど聞こうと思っていたんです。
大体、どうして虎徹さんの家で寝る羽目になったのか・・・全然記憶がないんです。
このままじゃ気持ちが悪いので、教えてください」
「・・・う」
『記憶』はバニーのトラウマだ。
それを知っている虎徹としては、適当にはぐらかすこともできなかった。
「・・・飯食いながら話そうぜ」

「はい、お待たせー」
虎徹が台所からチャーハンを二人前運んできた。
「召し上がれ」
「はあ、どうも」
バーナビーは皿を受け取ったが、すぐに、
「で? あの後、何がどうなったんですか?」
そちらの方が気になるらしい。
仕方なく、虎徹は、酔っ払ったバニーが公園で寝ようとして動かなかった話をした。
「お前が子供の頃両親と暮らしてた家、あのカラオケ屋の近くにあったんだな」
「・・・全然違います」
「へ?なんで?違うの?」
バーナビーの言葉に、虎徹は目を丸くした。
「あそこから歩いていけるような場所じゃありません。
そんな酔っ払いのたわごと真に受けて付き合うなんて。
あんな寒い夜にずっと外で過ごしていたら、風邪ひくの当たり前です。
下手したら、凍死しているところですよ」
「・・・おれの苦労は一体・・・」
虎徹が落ち込むと、
「僕としたことが・・・そんなに泥酔していたなんて」
バーナビーもまた落ち込んだ。
その姿に、虎徹は聞いてみた。
「・・・記憶なくすほど飲んだの、初めて?」
「当たり前です。いつもだったら、そんなバカな飲み方はしません。
昨日はみんなして飲め飲めうるさいし・・・」
「・・・そっか。なら、おれも熱出した甲斐があったってことか」
「は?」
「だって、楽しくて、思わず酒が進んだってことだろう?良かったよ」
「良くないですよ。こんな醜態さらすなんて・・・」
「そっか。
初カラオケに初 泥酔・・・おれ、バニーの初体験をいただいちゃいましたか」
ニヤニヤ笑う虎徹に、
「いやらしい言い方、やめてください」
バーナビーが顔をしかめる。
この人といると、イライラさせられたり、呆れさせられたり、ペースを乱されてばかりだけれど。
でも、一人いる時よりも、なんだか心が穏やかになる。
ずっと一人で生きてきて、これからも一人で生きていくのだと思っていたのに。
気が付くと、この人の姿を探してる。
「で、おれのチャーハンはどうよ?うまいだろ?」
虎徹があんまり得意げな顔で言ってくるものだから、素直に返事をするのが癪になる。
「・・・僕の方がもっと美味しく作れると思いますけど」
「言ったな!
よし、じゃあ今度、チャーハン対決するか?
ヒーローみんなに食わせて、判定させよう。負けねーぞ!」
虎徹はすっかり自分の思いつきに夢中になっている。
「はいはい」
他愛のないやりとりでも、この人と喋っていると、なぜか安らかな心もちになる。
この男と出会う前は、こんなこと、知らなかった。
会話って情報の伝達だと思っていたのだが、この男との会話で何らかの情報を得られた試しなんてない。
それはそうなのだが、何も得るものがないかと言うと、それもまた違う。
なんだかほっとする。
そのことに気付いてしまった。
だから、どうしていいのか分からなくなる。
以前の自分だったら、何の迷いもなく、この人の優しさに全てを委ねることができたのに。
全ての真実を知ってしまった今、世界の位相は変わってしまった。
もう、何も知らなかった頃には戻れないのだ。

To be continued...

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