(前置き)
この話は、最終回を見る前に、「こうなったらいいな〜」と妄想した内容です。
なんで、公式の最終回とは矛盾した点多々ありますので、ご注意を。
・・・他の話も十分矛盾してるんで今さらですが・・・
手帳に記された日付と数字を見つめる。
少しずつだが確実に、日を追うごとに数字は減っている。
NEXT能力を発動していられる時間は。
虎徹は手帳を枕元に置いて、ベッドに寝そべった。
「おれがヒーロー引退するって言ったら、お前どうする?」
天井を眺めながら、隣の相棒に尋ねた。
彼の年下の相棒は、虎徹のベッドの上でうつ伏せになり、
ノートパソコンのキーボードをぱちぱち叩いているところだった。
勉強熱心な彼は、両親の残した研究内容について、時々こうして調べている。
会社でも、メカニックの斉藤さんの話に熱心に耳を傾けている姿をよく見かけた。
もっとも、斉藤さんのあの声の小ささでは、誰でも集中せざるを得ないが・・・
バーナビーはディスプレイから顔を上げ、綺麗なエメラルドグリーンの瞳をこちらに向けた。
「虎徹さんが辞めるのなら、僕も辞めます」
彼は何の躊躇もなくそう答えた。
「虎徹さん以外の人と組むつもりはないですし、
そもそも、ヒーローになったのは、両親の仇を取るのが目的だったのだから。
それも、マーベリックにそう仕向けられて。
虎徹さんが辞めるのなら、僕にはもうヒーローを続ける意味がありません。
虎徹さんは、辞めてその後どうするんです?」
バーナビーに逆に問い返されて、虎徹はあごひげを撫でた。
「さあて、どうしようかねえ」
「いっそ二人で何か始めます?」
バーナビーが目を輝かせた。
「僕、考えますね」
とても楽しそうだ。まるで、旅行の計画でも立てるみたいに。
そんな彼の姿を見て、虎徹は思う。
自分と一緒にいたいと言ってくれる気持ちは嬉しい。
自分だって、こいつといられたら楽しい。
だけど、いつまでも自分に縛りつけておいていいのか?
自分の能力の衰えを自覚するにつれて、この若者のことを思うようになった。
こいつはとても優秀で、その能力と才能をもっと華麗に花開かせる舞台があるはずだ。
まだ若いこいつには、眩しいばかりに輝く未来が無限に広がっているのに。
おれなんかに、こいつの可能性を奪う資格はないのだ。
虎徹が黙りこんだのを見て、バーナビーはパソコンをベッド脇のサイドボードに乗せた。
そうして、恥ずかしそうに、そっと体を摺り寄せてきた。
目を閉じて、虎徹を待つ。
いつもみたいに。
一緒のベッドで寝るのはもう何度目になるか数え切れないほどなのに、こいつはいつまで経っても、
最初の時と変わらずに、おっかなびっくり、そうっとそうっと虎徹に近づいてくる。
その様子をいつも心から愛おしいと思う。
抱き寄せて、頬にキスをして、そして――
虎徹は言った。
「悪かったな、バニー。もう、こんなことはやめよう」
「・・・え?」
エメラルドグリーンの瞳が見開かれた。
「だって、おかしいだろう、男同士でこんなこと」
「・・・そんなこと、始めから分かっていることじゃないですか。どうして今さら?
あなたは一体どういうつもりだったんです・・・?」
「それは・・・」
「同情ですか」
そう言ったバーナビーの目は氷のように冷たく、何の感情もなかった。
「僕がかわいそうだから、哀れんでくれていたってわけですか。
そうですね、今までのことは、忘れてください。
変なことにつき合わせてしまって、すみませんでした」
彼はそう告げるなり、虎徹に何かを言わせる隙もなく、パソコンを抱えて寝室から出て行った。
隣の部屋から、ごそごそと衣擦れの音がして、やがて扉が開き、閉められる音がした。
翌朝、いつものトレーニングルームに顔を出すと、
「ちょっと、タイガー!ハンサムとまたケンカしたの!?」
ファイヤーエンブレムにいきなり怒鳴られた。
「へ?」
「ハンサムが不機嫌オーラ全開で、誰も近づけないんだけど!」
「ケンカなんかしてねえよ」
「じゃあ、どうしてあんなに不機嫌なのよ」
「おれに聞くなよ」
「ハンサムのご機嫌は、アンタで決まるのよ、タイガー。
これじゃ、アタシたち、いたたまれないじゃない!どうにかしてちょーだい!!」
「なんで、おれが・・・」
「パートナーでしょ!!」
ファイヤーエンブレムに睨まれて、虎徹はすごすごと引き下がった。
「バニー、ゆうべは悪かった」
バーナビーが休憩室に入ったのを見計らって、虎徹は声をかけた。
彼の年下の相棒は、振り向いた。
「どうしてあなたが謝るんです。
謝らなきゃならないことなど、何もない」
そう告げた顔には、何の感情らしきものも浮かんではいなかった。
こんな顔のこいつを見るのは、久しぶりだ。
出会ったばかりの頃は、こうだった。
一切他人を寄せ付けず、自分もまた他人に対して心を開かない。
両親を殺した犯人への復讐を誓い、一人で生きていた。
そんなこいつの姿が痛々しくて、何とか力になりたいと思った。
支えになりたいと思った。
その気持ちが通じたのか、いつしか自分に心を開いてくれるようになっていき・・・
最近では、若者らしい喜怒哀楽の表情を見せるようになっていたのに。
また、最初に逆戻りだ。
「バニー、お前を傷つけるつもりはなかったんだ。
ただ、おれはお前のことを思って――」
「やめて下さい。言い訳なんて聞きたくない。余計 惨めになるだけだ」
「惨め?」
「何でもありません。とにかく、もう終わったことです。
もう二度と口にしないで下さい」
怜悧な刃のような視線を虎徹に向けると、バーナビーはトレーニングルームを立ち去った。
「バニー・・・」
どうして、上手く伝わらないのだろう?
こんなに大事に思っているのに。
なぜ、傷つけてしまうのだろう。
それでも、離れなくてはならない。
本当に大切だと思うからこそ。
自宅に戻るなり、バーナビーは倒れるようにカウチに座りこんだ。
『だって、おかしいだろう、男同士でこんなこと』
その言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
あの人に、そんな風に思われていたなんて。
この人になら自分の全てを委ねてもいいのだと有頂天になっている間、
あの人は冷めた目で自分のことを見ていたのだ。
同性に平気で肌を重ねている自分のことを。
恥ずかしい。悲しい。惨めだ。
いろいろな感情がごっちゃになってあふれ出す。
とにかくもう、全面的にいたたまれない。
仕事はいつも通りこなさなければ、と気持ちを奮い起こして努力したけれど、
これ以上はもう無理だ。
もう、まともにあの人の顔を見られない。
辞めよう。
明日ロイズさんに話をしよう。
引き止められるかもしれないけれど、断る理由なんていくらでもある。
そもそも、自分で選んだ仕事じゃない。あのマーベリックに仕向けられただけ。
いいように操られてきた結果が、今の状態。
そう考えれば、むしろ辞めるのが当然なのだ。
これからは、自分の人生は自分で選ぶ。
ヒーローなんて、辞めてしまおう。
もともと、好きでやってる仕事じゃない。
そう。
虎徹さんと違って。
「虎徹さんは、本当に辞めるのかな・・・」
あの男のことを思ったとたん、胸が痛んだ。
クリームの言葉をきっかけに、記憶が曖昧になっていって苦しんでいた時も、
この部屋でこうして一人、眠れない夜を過ごしていたっけ。
そこへ、虎徹さんが心配して様子を見に来てくれた。
あの時にはもう、自分の能力が減退していること、虎徹さんは知っていたんだ。
能力の減退。
今までと同じようには動けない。
そう思えば、引退するのが妥当だろう。
だけど、辞められるのか?あの人に。
所属していた会社がヒーロー事業から撤退して、アポロンメディアに拾われた格好で入ってきて。
散々ロイズさんから「嫌なら辞めていいんだよ?」とイヤミを言われても、
年下の自分に冷たくあしらわれても、ヒーローという仕事に情熱を持って続けてきた、あの人に。
それは、身を切られるよりも辛い決断だろうに。
それなのに・・・自分がそんな状態だっていうのに、僕のことを心配して。
全然、気付いてあげられなかった。
僕はいつだって、自分のことだけでいっぱいいっぱいになってしまってた。
そう、今だって。
虎徹さん。
自分が大変な時にまで、他人の世話なんか焼いて・・・バカな人。
「あの人のために、僕は何ができるだろう・・・」
つづく
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