For You


腕のPDAがエマージェンシーコールを告げる。
「よおし、いっちょやったるか」
おれにはおれの、やれる事があるはずだ。
虎徹が、斉藤さん特製のトランスポーターに乗り込むと、
「遅いですよ、虎徹さん」
黒のインナースーツを着た若者が立っていた。
「バニー、お前、なんで?」
「あなたが続けるのなら、僕も続けないと」
「なんでだよ?」
「だって、あなたみたいな無茶苦茶な人と組めるの、僕だけですよ」
「それはこっちのセリフだっつーの」
虎徹は口を尖らせたが、ふいに真面目な顔になった。
「心配してくれるのはありがたいが、バニー、お前は自分の人生を生きろよ」
虎徹の眼差しをまっすぐに受け止めて、バーナビーは答えた。
「・・・確かに、始めはヒーローなんて仕事に興味も関心もなかった。
両親を殺した犯人を探すため・・・ただそのための手段に過ぎなかった。
でも、あなたや他のヒーローたちを見ているうちに、僕もこの仕事が好きになりました。
ヒーローを続けるのは、僕の意思です。
両親が人の役に立つようにとロボット工学の研究をしたように・・・
僕もまた、自分の力を誰かのために使いたい。
きっと両親も、それを望んでいると思うから」
「よーし、よく言った!
お前にもようやく分かってきたようだな。
おれがヒーローの真髄ってやつを教えてやるぜ!」
「いえ、結構です」
「ダッ!なんでだよ!?」
「だって、僕、あなたを目標にするつもりはありませんから。
僕が目指すのは、もっとクールでスタイリッシュなヒーローなので」
「なあーにがクールでスタイリッシュだ!
ヒーローに必要なのは、魂!情熱!スピリッツ・アーンド・パッションなの!!」
「・・・暑苦しい。古臭い」
「古いも新しいもねえ!!」
「これだから、おじさんは・・・」
「なにい!!」
「それに、あなたの後を追いかけてるだけじゃ、僕の目標は達成できませんし」
「目標?」
「僕の目標は、あなたと対等な相棒になることです。
あなたに、一人前と認めてもらうことです。
いつまでも、子供扱いされるのは心外ですから」
お、なんだ。
今日のバニーの表情が逞しく感じられるのは、気のせいか。
いよいよバニーちゃんじゃなく、バーナビーと呼ばなければならない日が来たのか。
虎徹にとって、寂しいことだけれど、それは祝うべきことだ。
目の前の若者は、真っ直ぐな瞳で言った。
「そのために、まず、チャーハンを完璧に作れるようにします。
ピラフとかナシゴレンとか焼き飯とかと間違えずに、今度こそ、 虎徹さんに僕の作ったチャーハンを食べてもらえるように、練習します」
「・・・へ?」
「それから・・・」
年下の相棒はふいに声を落とすと、恥ずかしそうに俯いた。
「虎徹さん、今まで添い寝してくれてただけですよね。
確かにちょっとスキンシップ過剰なところはありましたけど・・・
キスしたり、ヘンなところ触られたり・・・僕は気持ちよかったですけど、 虎徹さんはただ一緒に寝てくれてただけですよね。
だから、これからは、僕が虎徹さんを満足させてあげられるように頑張ります」
「・・・え?」
バーナビーは綺麗なエメラルドグリーンの瞳をひたと虎徹に向けてきた。
「フェラチオとかアナルセックスとか、 虎徹さんのどんな要望にも応えられるように頑張ります」
にっこり天使の笑顔で、バーナビーは言った。
ガン、と虎徹は壁に頭をぶつけた。
「虎徹さん、大丈夫ですか?」
若者が驚いた顔をする。
あやうく卒倒するところだった。痛みで目が覚めた。
「・・・バニーちゃん・・・もしかして毎晩パソコンで調べてたのって・・・」
「男同士のセックスの方法です」
純真無垢な笑顔で、バーナビーは答えた。
「お前な・・・」
「だって、虎徹さん、何も教えてくれなかったから」
「おれだって知らねーよ、そんなん!
って、そうじゃなくって――」
「ただ添い寝しただけって、僕のことを子供だと思っているからでしょう?
僕はあなたに一人前の大人だと、対等の相棒だと認めてもらいたいんです」
いや、だから。
一人前だと認めてもらいたい、という気持ちは分かる。
若い頃には誰だって一度は思うことだろう。
虎徹にだって、覚えはある。
でも。
その結果がどうしてチャーハン?
どうして、アナルセックス?
「・・・お前の相棒の定義が分からねえよ・・・」
呟く虎徹の声など、若者の耳には入っていないらしい。
「必ず、虎徹さんを満足させてみせますから」
思い込んだら一直線。
いったん心を決めたなら、どこまでも一途。
こいつは、そういう奴だった。
「・・・はあ」
ため息をつく虎徹を、バーナビーはいつもの「どや顔」で見下ろしている。
他人が羨むほどの能力と才能を持っていながら、なぜかいつもその向ける先がどうかしている。
果てしなく残念な奴。
扱いづらい、困ったちゃんなのに。
――可愛いと思ってしまうおれも、重症だな。
「ボンジュール・ヒーロー」
アニエスの甘い声が響いた。
「行きますよ、虎徹さん」
年下の相棒の呼びかけに、虎徹は答えた。
「あいよ、バニーちゃん」
この調子じゃ、バニーちゃん呼びを卒業できる日はいつになるのやら。
でも、本当は分かってる。
その日が永遠に来なければいいと、自分が願っていることを。
卑怯なのは、ずるいのは、おれの方だな。
ごめんよ、バニー。
可愛いバニーでいてくれよ。
今はまだ。
その日はいつか必ず、嫌でも訪れるのだから。

To be continued...

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(蛇足)
最初考えた時にはブルーローズに登場の予定はなかったんですが、書いてるうちになぜかこうなった・・・
個人的には、ローズちゃんが一方的にバニーに対抗心燃やしてるのを希望v
虎徹さんも鈍いが、バニーも乙女心が分からなそう・・・
よく分からないけど、僕、この子に嫌われてるなー
この年頃の女の子って分からないからなー、みたいな。

あと、チャーハンね。
例のチャーハン事件の後、 ネットでチャーハンとピラフってどう違うの?焼き飯は?みたいな話題になってるのを読んで、 超ウケた・・・vv
確かにね!私も違いが分からないよ!
とりあえず、おじさんが好きだったら、それがチャーハンなんだよ!
個人的にはそんな定義で。

そして、バニー、男前に書いてあげられなくてごめん!
つい最後でオトしてしまうよ・・・
でも、私が惚れたのは、緊迫した場面で「チャーハン」とか言い出すようなバニーなんだもの・・・!




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