Good Night


さっきから、水でも飲むようにワインを開けまくっているバニーに、
「おいバニー、ちょっとペース早いじゃねえの?」
「大丈夫です」
バニーは座った目をして答えてきた。
目の端がほんのり赤くなっている。
ずいぶんアルコールが回っているようだ。
本人としては、十分に承知の上でやってることなので、虎徹もそれ以上は何も言わないが。
――まったく、酒の勢い借りないと誘えもしないなんて、困ったもんだ。
「そんなヘベレケになったら、使いものにならねえだろうが。
ほんとにお子ちゃまだな。だから、お前は子兎(バニー)なんだ」
「バニーじゃありません。バーナビーれす」
「呂律まわってねえよ」
「らぁかぁらぁバーナビーれしゅって。
いい加減、子兎扱いしないれくだしゃい。
僕はもう、子供じゃないんれすからね」
「おい、ちょっと・・・」
バーナビーに床に押し倒された。
起き上がろうとしても、両手を押さえつけられて、起きられない。
すげえ力だ。
「ふふん」
虎徹の上から、年下の相棒が不敵に笑った。
ぎゃー、バニーに襲われる!?
「・・・」
「・・・バニー?」
ぱったり倒れるなり、すやすやと安らかな寝息を立て始めた。
「おーいバニー、おれの上に乗っかったまま寝るなよ」
おいって。ゆすっても起きない。
まったく、本当にお子ちゃまなんだから。
しょうがない。ベッドまで運んで行ってやる。
「んん・・・」
ベッドの上に体を横たえると、そのまま口を少しだけ開けて寝ている。間抜けな顔してら。
普段のこいつからは想像もできない無防備な姿。
額にかかった金髪をかきあげてやると、
「・・・ふふっ」
楽しそうに笑った。目が覚めたわけではなく、夢の中で何か楽しいことがあったらしい。
「なんだ、楽しそうだな。おじさんもまぜてくれよ」
間抜けな寝顔をからかってみる。
もちろん、夢の中の住人に通じるわけがないのは分かっているが。
「こてつさん・・・」
夢の中の世界にいるバニーはそう呟いて、再び幸せそうにほほ笑んだ。
――うーん、参った。
本気でやりあったら、勝てるかどうか微妙な――もちろん、負けるとは思わないが――というか思いたくないが――、 二十歳も過ぎた男のこと「かわいい」と思うなんて。
おれも大概どうかしている。
でも、どうしてもこいつを見てると危なっかしくて放っとけない。
普段、人前では、とてもルーキーとは思えない落ち着きぶりで、年齢よりも大人びた印象を受けるけれど、 時おり見せる素の顔は、恐ろしいほどに純粋無垢だ。
目の前で両親を殺されるという悲劇を背負って生きてきて、大人になってもなお、 こんな子供のようにまっすぐな気性を保ち続けているなんて、 ちょっとした奇跡だ。
あのマーべリックによってヒーローになるべく純粋培養されてきたせいか、
それともこいつの生来の資質なのか、それは分らないけれど、しかし、その純粋さが恐ろしい。
見ているこっちとしては、まったくヒヤヒヤする。
両親の事件にカタがついて、このまま落ち着いてくれればと願うばかりだ。
「おやすみ、バニー」
ベッドをこいつに明け渡すために、切り上げようとそう挨拶すると、
「・・・行かないで」
白い指先が何かを求めるようにシーツの上をさまよっている。
起こしちまったか、と思ったら、堅く目は閉じられているので、寝ぼけているらしい。
「あなたは、僕を置いていかないで・・・」
閉じられた睫毛の下から涙の粒がひとしずく、白い頬をすべりおちた。
「大丈夫」
シーツの上をさまよう指に、自分の指をからめて、そう答えた。
「お前はもう一人じゃねえよ」
「・・・」
バニーはほっと安堵の表情を浮かべ、虎徹の指を握りながら、再び安らかな寝息を立て始めた。

To be continued...

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