Top of the World


バニーが変わった。
ということには、ヒーローたちみんなが気付いていた。
ロックバイソンには、
「お前ら二人に振り回されるのはもう御免だからな。もうケンカすんなよ」
とイヤミを言われた。
ドラゴンキッドなんかは、
「二人とも仲良くなってよかったね!」
と無邪気に喜んでいる。
折紙くんも、「ですね」と同意したりして。
スカイハイは天然なんで、もとよりいいとして。
ブルーローズは、今度出すCDの準備で、歌やらダンスやらの練習が忙しいらしく、 こちらにはほとんど顔を見せない。
助かった。
もし、今のバニーを見たら、思春期の女の子特有のカンで、何かを感じたかもしれない。
そういう訳で、目下、虎徹が注意すべき相手は、ただ一人。
「最近、ハンサムのハンサム度が十倍増しになったんじゃなーい?ねえ、ワイルドタイガー?」
ファイヤーエンブレムが寄ってきた。
「そうか?」
一応、とぼけてみる。
「人は恋をすると綺麗になるって言うものね〜」
「・・・あいつも若いんだし、彼女の一人や二人できてもおかしくねえだろう」
「そうねえ。あのハンサムをここまで変えちゃうなんて、一体どんな恋人なのかしらね〜」
ファイヤーエンブレムの意味ありげな笑みに、虎徹は引きつった笑顔を返すしかなかった。

いまや、こいつと食事をするのは当然になっていた。
人が訪ねてくることなど全く想定されていなかった若者の部屋には、 虎徹が訪ねるごとに物が増えていた。
虎徹が今座っているイスは、一番最初に増えた物だ。
初めてこの部屋を訪れた時には、広い部屋の真ん中にカウチが一つ置かれただけだったが、 今は、テーブルをはさんで、二つのイスが配置されている。
もう一つのイスには、当然のことながら、この部屋の主が座り、虎徹の作ったチャーハンを口に運んでいた。
数ヶ月前には、想像もしなかった景色だ。
しかし、今や、こんな風景に、すっかり慣れてしまった自分がいる。
「あ、そうだ、虎徹さん」
ふいに、バーナビーが口を開いた。
「虎徹さんに教えてもらいたいことがあって」
「お前がおれに?珍しいな」
さすが両親が学者だけあって知識欲旺盛で理解力も高いこいつが、虎徹にものを尋ねてくることなどついぞない。
自分にすら分からないんだから、虎徹に分かるわけがない、聞いてもムダ。
以前のこいつなら、そうだったろう。
しかし、こいつも変わったからな。
「よしよし、なんだ、言ってごらん」
「大人のおもちゃってなんですか?」
「ブーッ」
虎徹は食べかけのチャーハンを吹き出した。
「わっ、大丈夫ですか!?」
バーナビーは慌ててティッシュを数枚手に取り、虎徹の口の周りを拭い始めた。
以前なら、「マナーがなってない!」とか軽蔑の眼差しを寄こしてきたところだろうに、 今は、かいがいしくテーブルの上を片付けたりしている。
本当に変われば変わるものだ。
「・・・お前、そんな単語、どこで仕入れてきた・・・?」
ようやく落ち着いた虎徹が聞くと、バーナビーはきょとんとして、
「さっき、ファイヤーエンブレムさんに言われたんです。
二人の絆をより深めてくれるものだからって。
どんなものだか、虎徹さん、知ってます?」
天使の笑顔でなんてこと聞いてきやがるかな!?
「大人なのにオモチャだなんて、変ですよねえ・・・
虎徹さんも知らないようなら、後でネットで調べて――」
「調べるなー!!」
「そんな大きな声出さなくても」
バーナビーはエメラルドグリーンの瞳を丸くしている。
――ファイヤーエンブレム、あんにゃろー・・・

翌朝、トレーニングルームで張っていると、奴を捕まえることができた。
「ファイヤーエンブレム!おまえ、バニーに変な入れ知恵するなよ!」
部屋の隅に彼(女)を引きずり、声のトーンを落としながらも、虎徹はわめいた。
「あらん、何のことかしら?」
「とぼけるな。昨日、バニーに言っただろ。大人のおもちゃとか・・・」
「あらん。アタシはハンサムに、ハンサムのダーリンに聞きなさいって言ったのに。
どうして、アンタがその話を知っているのかしらん?ワイルドタイガー?」
「・・・う」
「いいじゃなーい。今のハンサムは、本当に幸せそうだもの。
見てるこっちまで、幸せな心持ちになっちゃうわ。
これって、とってもステキなことじゃない」
そう言って、ファイヤーエンブレムは片目をつむった。
「あの子は小さい時に両親を亡くしているんだものね・・・家族の愛情に飢えているのよ。
アンタもそう思ったんでしょう?
・・・ま、この際、父親じゃなくて恋人になっちゃうのもアリだと思うけど。
この街は、同性の結婚も認められていることだし。お幸せに♪」
「しねーよ!!」

「それでは、今夜のサプライズゲストの登場です!
今をときめくオスカー女優キャサリンさんが今一番会いたい人・・・
それは、この街のヒーロー、バーナビー・ブルックスJrさんです!」
バニーが登場すると、観客席から黄色い悲鳴が飛び、 スポットライトの中の女優がきゃあっと頬を赤らめた。
虎徹の相棒は、テレビ番組の収録中だった。
この後、一緒に取材を受けることになっている虎徹は、ステージ裏からその様子を眺めていた。
美男美女が並ぶと絵になるなあ。
感心する。
今一番人気の女優と並んでも、全く物怖じする様子もない。
そもそも、ビジュアルでもちっとも引けを取らない。
このまんま、二人で映画が取れそうだ。
「バーナビーさんの好みのタイプは?」
質問されて、
「年上です」
彼は何の迷いもなく即答した。
一回り年上で、好物はチャーハンで、職業はヒーローで・・・
とは、続かなかったので、虎徹はほっと安心した。
この番組のホステスである女優は、バーナビーより少し年上だったから、 みんな、彼女を指しての言葉だと理解したらしい。
よかった。
あいつ、時々とんでもねーこと口走るからな。
そのうち話題が、女優の今はまっている趣味に移っていった。
「今、料理に凝ってるんですよ」
会場に、彼女が自宅で料理をしている映像が流れる。
出来上がった料理は、ボリューム満点で、見栄えもいい。
それでいて、作り方はとても簡単そうだった。
それを見ていた、虎徹の相棒の目が輝いた。
「この料理の作り方、教えてください」
バーナビーが前のめりになってきたので、女優の目がハートになった。
「え、ええ、もちろん」
「肉の部位は?量は?下味つけるって、どうするんですか?野菜はどのくらいの大きさに切れば?火にかける時間は何分ですか?」
若いヒーローの食いつきぶりに、一同は呆然としていたが、
「・・・バーナビーさんもお料理されるんですか?」
「ええ、僕も今凝ってるんです」
輝く笑顔で、彼は答えた。
「食べてもらいたい人がいるので」
爆弾発言に、場は騒然とする。
熱愛発覚!?スキャンダル!?
しかし、当の本人はそんな周囲の空気などまったくおかまいなしで、はあ、とせつなげにため息をつくと、
「だって、その人、ほっとくとチャーハンしか食べないから、栄養の偏りとかコレステロールとか心配で・・・」
ずるっと、虎徹はイスから落っこちた。
チャーハンばっか食べてるってどんな女よ?という声が会場のどこからか聞こえてきた。
「え?女性じゃないですよ?」
きらっきらな瞳の天使の笑顔で言われたら、もう黙るしかない、誰だって。
この番組が生放送じゃなくてよかった。
きっとこの辺りはうまく編集されるだろう。
っていうか、してくれ。
虎徹は頭を抱えた。
バニー、やめてくれえ、これ以上喋るのは。
心臓に悪すぎる。
虎徹の不安をよそに、バーナビーは最近とりわけ輝きを増した笑顔で、 最後までこの場の女性たちを虜にしながら、番組はなんとか無事終了した。
スタッフたちと挨拶を終えると、バーナビーは虎徹のところに戻ってきた。
「・・・お前、いきなり何言い出すんだよ・・・」
「え?僕、何か変なこと言いました?」
虎徹に言われても、バニーはきょとんとしている。
「・・・いや、もういいわ・・・」
「虎徹さん、今日は早く終わりそうだから、夕食は僕が作りますね。
今の料理なら僕にも作れそうだし。手順も材料も聞いてきたので。
ね、いいでしょう?」
そう言って虎徹に向けてきた笑顔は、本当に楽しそうだ。
この新婚さんな会話はなんなんだ、と思うけれど、 こいつの笑顔には、全ての問題を帳消しにしてしまえるパワーが確かにあった。
「それにしても、さすが、女優さんは綺麗ですねえ」
バーナビーが感心したように呟いたのを聞いて、
「お、バニーはカワイイ系よりキレイ系がお好みですか」
虎徹がからかうように突っ込むと、ちょっと小首をかしげて、
「そうですね、どちらかと言えば」
と答えてきた。
うんうん。いい傾向だ。男同士で新婚さんごっこをやってる場合じゃない。
「そうかそうかー。向こうもお前に気があるみたいだぜ。今度誘ってみたら?」
「え、いいですよ、そんな」
バニーが珍しく困った顔をする。
「大丈夫だって!お前に誘われて断る女なんていねーよ。自信持て!」
虎徹がそう励ますと、彼の相棒は答えた。
「だって、僕の写真集、彼女の写真集より売り上げランキング上なんですよ?
気まずいじゃないですか」
バーナビーはにこっと笑った。
「・・・」
こいつに、悪気はないのだ。
自慢でも、皮肉でもない。
ナルシストってわけでも・・・それほどでもないみたいだ。
こいつとしては、客観的事実を述べているだけなのだ。
「虎徹さん?どうかしました?」
思わず天を仰いだ虎徹を見てバーナビーは、きょとんとしている。
二枚目で、ルーキーから大活躍の将来有望な若者で、努力家でもあって、 一見非のうちどころがないように見えるけれど。
何か、どこかが、ズレている・・・

To be continued...

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