There's No Reason


「・・・ん?」
温もりを感じて、虎徹が両手を顔から外すと、バーナビーの背中が見えた。
「こんな感じでいいですか?」
虎徹の背中に腕を回しながら、バーナビーはそう尋ねてきた。
「虎徹さん、時々、僕にしてくれますよね?こんな風に・・・」
彼にとっては、抱擁(ハグ)のつもりなんだろう。
だけど、傍(はた)から見てる分には、 長い腕を絡ませて、必死にしがみついてるみたいな、ぎこちなさしか感じられない。
虎徹としては、自分が丸太にでもなった気分だ。
「僕の体は虎徹さんみたいに温かくないと思いますけど・・・どうですか?」
娘のいる虎徹には分かる。
力の加減ができない、ぎごちない抱擁は、小さな子供が愛する両親に与えるもの。
彼の年下の相棒の抱擁はまさにそれだ。
それはつまり、彼の中のある部分は、四歳の時から成長していないということだ。
まっすぐに見つめてくる、エメラルドグリーンの双眸。
バーナビーは子供みたいに生真面目な表情をして、虎徹の返事を待っている。
――こいつは本当に子供なんだな。
ナリは一人前の男だけれど。
スレた計算もできる大人だけれど。
心は子供のまま、成長することができなかった。
虎徹は、じっとこちらを見つめてくるバーナビーの頬に手を置いた。
いきなり触れられて、彼は驚いたように体をびくっと震わせたが、
「・・・虎徹さんの手はあったかいですね。
僕の手は虎徹さんみたいに温かくないからダメだなあ・・・」
落胆の表情を浮かべて、バーナビーは虎徹にまわした腕を離した。
「そんなことねえよ。 最高のバースデープレゼントだったぞ」
虎徹が満面の笑みを浮かべると、バーナビーは「はあ」とため息をついた。
「こんな適当なもので満足されちゃ困りますよ。
ヒーロー全員でちゃんとプレゼントを用意してあるんですからね!」
バーナビーがいつもの得意げな表情で言った時だった。
彼の携帯がブルブルと震えて、メールの着信を告げた。
「準備できたみてえだな」
「そうですね」

虎徹がトレーニングルームへの扉を開けると、
「ハッピーバースデー!ワイルドタイガー!!」
六人の男女の声とともに、騒々しいクラッカーの破裂音が耳をつんざく。
「おー!ありがとよ、みんな!!」
虎徹が手を振って返す。
「タイガー、あんまりびっくりしてないね?」
そんな彼を見ていたドラゴンキッドが鋭い一言を発した。
「すみません、みなさん。虎徹さんにバレてました・・・」
バーナビーが謝ると、虎徹はその言葉を遮るように口を開いた。
「いーや、サプライズならさっきもらったよ。 それもとびっきりのヤツ。嬉しかったよ。だから、十分」
そう言って、小柄なドラゴンキッドの頭を撫でる。
「タイガーが喜んでくれたんなら、いいけど。
あのね、ブルーローズがケーキを作ったんだよ!」
「へえ、そいつは楽しみだな」
「べっ別にあんたのためなんかじゃないんだからねっ!
友達にプレゼントするついでに、一緒に作っただけなんだからねっ」
真っ赤になって言うブルーローズに、スカイハイが爽やかな笑顔で補足する。
「何を言っているんだ、ローズくん。 この日のために、何個もケーキを作って、練習してきたじゃないか。
いや、今日のは見事だ!この一週間、ケーキを食べ続けてきた甲斐があったというものだよ」
「ちょっスカイハイ!!」
「いいからいいから!早く飲み物をまわしてちょうだい」
見かねたファイヤーエンブレムが仕切りに入ると、 折紙サイクロンが皆の間を素早く動いてグラスを渡していく。
「グラスは渡ったか?」
ロックバイソンがヒーロー一同を見渡した。
「それでは、僭越ながら、ワイルドタイガーとは腐れ縁の私、 ロックバイソンが乾杯の音頭をとらせていただきます。
乾杯!!」
「お誕生日おめでとう!!」
ブルーローズお手製のケーキに、ロウソクの火が灯される。
それを虎徹が吹き消すと、賑やかなパーティーの始まりだ。
皆が群がって、大きなケーキをどうやって切り分けようかと 騒ぎ始める。

「・・・サプライズのはずだったのに、バレちゃってたのね?」
虎徹が一人離れた所から、皆のにぎやかな様子を満足そうに眺めていると、 ファイヤーエンブレムが近づいてきた。
「ハンサムの足止め作戦は失敗しちゃったのねー」
「大体あいつにその役振ったこと自体間違いだろー。お前も分かってたくせに」
「そんなことないわよ」
「けどまあ、おかげさまで、貴重なプレゼントをもらえたけどな」
「あら、なあに?」
「それはヒミツです」
「きゃっヤラシー!でも、本日の主役に満足していただけたようでよかったワ」
ファイヤーエンブレムは笑って、ケーキを囲む集団の輪の中に入っていった。
愛想がよくて、社交もソツなくこなすが、決して他人に心を許さない。
そんな若者が何の打算もなく自分の意思で近づいてきて、ぎこちなくまわしてきた腕。
一途で一生懸命で。
幼い子供が両親にすがる時のような必死さで。
ファンや仕事の関係者と交わす、いつものスマートな抱擁とはぜんぜん違う。
あの若者が虎徹に絶対の信頼を寄せている、何よりの証だ。
この世界にこれより貴重で、価値のあるものなどあるだろうか。
若者の生真面目な表情がいとおしくて、思わず頬に手をやって、キスしそうになった。
・・・なんてことは、絶対に秘密だ。
――あいつが、ウブでお堅い人見知りでよかったわ。
誰にでも、あんなことする奴じゃなくて。
虎徹はつくづく思う。
あいつがその気になったら、女でも男でも落とせない奴はいないだろう。
あの瞳で見つめられたら、男だと分かっててもヘンな気持ちになる。
とんでもねえ『たらし』になっていただろう。
行く先々で、流血の修羅場を巻き起こしていたかも。
「・・・ほんと、そっちのケのない男でもたらしこまれるわ」
「たらす?カクテルでもこぼしたんですか?虎徹さん。全くしょうがない人ですね」
「わっバニー!」
驚いてのけぞった拍子に、飲みかけのカクテルをこぼしてしまった。
「またやった・・・」
「お前が脅かすからだろー!」
「ブルーローズがせっかく作ったケーキ、食べてあげてくださいよ」
「おう、そうだな」
「甘さ控えめで、とっても上品な味ですよ。さすが、女性ならではですね。
でも、虎徹さんにはこの良さは分からないでしょうね。
あなたの舌は子供の舌だから。味がはっきりしてないとダメでしょう。
ケーキなら、べったべたに甘くないと」
「何をゥ」
「はい、どうぞ」
バーナビーがフォークに刺して差し出したケーキの欠片に食いつく虎徹。
「・・・」
「どうです?」
「・・・ジャムとか蜂蜜とかない?」
「やっぱりね。そう言うと思いましたよ。
はい、クローテッドクリームをどうぞ。砂糖たっぷりバターたっぷりの、 べったべたに甘いクリームですよ」
「うん、甘い。美味い」
「おかわりどうぞ」
「うん」
バーナビーの差し出すフォークに食いつく虎徹の姿は、 まるで親鳥から餌を与えられるヒナのようだ。
「・・・なんなの、あの二人・・・」
そんな二人に気付いたブルーローズは頬を引きつらせた。
「兎が虎を餌付けしている図ね」
ファイヤーエンブレムが解説する。
隣でケーキをほおばっていたドラゴンキッドは無邪気に笑って、
「二人とも、ほんと仲良くなったよねー」
「あれがコンビ愛というやつでござるな」
ふむ、と折紙サイクロンが頷くと、
「仲良きことは麗しきことかな!」
スカイハイが爽やかな笑顔で締める。
「そういうモノなの?」
ブルーローズに振られて、ロックバイソンは眉間に皺を寄せた。
「虎徹の場合は何も考えてねえだけだから、こっちが考えるだけ無駄だ。
気にするな」
「・・・そうよね」
ブルーローズが納得しかけたところへ、
「ま、よく言うじゃない?」
ファイヤーエンブレムが長い指をくるくると回して言った。
「男をオトす一番確実な方法、それは胃袋を握ることだって。
ハンサムってば意外と策士・・・なのかも?」
「・・・私、今日からママに料理教えてもらうもん!」
そう決意するブルーローズだった。


To be continued...


(蛇足)
バニーちゃんは天然誘い受けだといいな。それが犯行(執筆)の動機です。
・・・もしくは、天然を装った策士で、最終的には策士 策に溺れるというオチ。
頭いいのに、肝心なトコ抜けてる、残念可愛いバニーだといい。




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