Tell Me


「・・・というのが、今回、斉藤さんがしてくれたヒーロースーツのチューンナップの内容です。
何か質問ありますか?」
一通り説明し終えると、バーナビーは目の前の相棒に尋ねた。
スーツの説明書は、虎徹にも渡されているはずだが、この男が自分で目を通したりするはずがないのだ。
それは、自分のことをバニーと呼ぶのを止めないのと同じくらい、明らかな事実なので、 バーナビーは彼の自主性に任せることは諦めた。
捕まえて、強制的に話を聞かせる手段に出たのだが――
彼の相棒は、んー、と天井を見上げながら、口を開いた。
「なあ、バニー」
「はい?虎徹さん」
「あの天井のシミ、おっぱいのでかい女に見えねえか?」
「・・・僕の話、聞いてました?」
バーナビーのこめかみに青い筋が浮いた。
しかし、虎徹の方は年下の相棒に叱られるのには慣れたもので、
「あー、おれ、機械とかそーゆーの苦手でさあ。
必要になったら、バニーに聞くからいいよ」
「それじゃ、咄嗟の時に間に合わないでしょう!」
虎徹の呑気な言い分に、バーナビーがキレた。
「あなたの能力、一分間しかもたないんですよ?
せっかく斉藤さんがあれこれ工夫してくれたのに・・・
スーツの機能を使いこなせるかどうかが、命に関わる場面だってありえるんですよ!?
少しは真面目に聞いてください!!」
「大丈夫だって!おれ、本番に強いタイプだから。何とかなるってー!
それに、おれには心強い相棒もいることだし。な?」
ニッと笑ってウインクを返してくる能天気な相棒の顔を見て、バーナビーはため息をついた。
その隙に、彼の相棒はするっと脇を通り過ぎていく。
「じゃ、そーゆーことで!お先に!」
「ちょっと、どこ行くんです!?」
「もうすぐ娘の誕生日なんだよ。プレゼント準備しなきゃならねえんだ。悪いなっ」
バーナビーが声をかける間もなく、虎徹は走り去っていった。
「・・・もう」
バーナビーは再びため息をついた。


「お父さん、今度の日曜日は何の日だか覚えてる?」
テレビ電話のディスプレイの中から、少女が尋ねてきた。疑わしげな表情をしている。
虎徹は肩をすくめた。
「おいおい、忘れるわけないだろ、楓!娘の誕生日をさ。
日曜はそっちに行くから。昼前には着くよ。
お前にとっておきのプレゼント用意したからな、楽しみに待ってろよ!」
「お父さん、来なくていいから」
「ええっ!!」
ちょっと会わない間に反抗期!?
焦る虎徹に、少女は答えた。
「私がそっちに行くから。
あと、バースデープレゼントなんだけど、ほしいものがあるの」
「・・・ああ、なんだ、そういうことか。びっくりした・・・
欲しいもの?
なんだ?おれに準備できるものなら、何でもするぞ」
「本当?」
「あったりまえだろー!何でもパパに言ってごらん」
「あのね・・・私、バーナビーと遊園地に行きたい!!」


凝った装飾の施されたゲートの周りは、色とりどりの花で埋め尽くされていた。
本当に王子様とお姫様が暮らしていそうな城の塔が正面に見える。
シュテルンビルトの夢の楽園、というキャッチフレーズの通り、一歩中に入れば、 そこはもう別天地。
それが、虎徹の溺愛する一人娘が望んだ場所だ。
「悪いな、バニー。忙しいところ、こんなことに付き合わせて・・・」
柄にもなく申し訳なさそうな顔をしてくる虎徹に、バーナビーは笑みを返した。
「レディのお誘いを断るなんて野暮なことはできませんよ」
「レディっていうか、ただのチビだけどな・・・」
子供だけでなく、大人も楽しめる場所として、人気を集めているところだから、 こうして入り口前で男二人が並んでいても、違和感はない。
周りには、同じように待ち合わせの時間つぶしをしている集団がいくつもある。
それでも、人目を引いてしまうのは、やっぱり、こいつには容姿含めて、それだけの何かがあるんだろう。
一応、いつもと違う地味な黒縁眼鏡をかけているから(変装はこないだの一件で懲りたらしい)、 ヒーローのバーナビーだと気付く人はいないようだが、 待ち合わせの暇を持て余している女の子たちの関心を引くには十分らしい。
いつも傍で見ているから、すっかり慣れてしまっていたが、 改めて見返せば、確かに端正な顔立ちだ。
白馬の王子様を信じている女の子たちが夢中になるのも当然といえば当然か。
――うちの楓も、ごく普通の女の子ってことだよな。
幼いうちに母親を亡くし、父親である自分もそばにいることができなくて、 ずっと祖母と伯父に任せきり・・・
心配のタネは尽きないけれど、 こうして、すくすく真っ直ぐに育ってくれているのは、ありがたいことだ。
普段そばにいられない分、なるべく楓の頼みは聞くようにしているが、今度ばかりはちょっと悩んだ。
確かに、バーナビーに直接頼める立場ではあるが、それは仕事のパートナーだからだ。
自分のプライベートの事情を、仕事に持ち込むのは気が引ける。
だから、虎徹がトレーニングの合間の休憩中に、軽く話を出した時、 バーナビーが断ってくれたら良かったのだ。
虎徹の相棒は、ヒーローの仕事以外にも、テレビやら雑誌やらの取材に引っ張りだこで、 スケジュール表はいつもびっしり埋め尽くされている。
それを知っていたから、「スケジュールが合わなくて」と一言いってくれたらそれでよかったのに。
それをこいつは、あちこちに手を回し、ムリヤリ時間を捻出してしまった。
「バニー、本当に無理して時間作ってくれなくても良かったんだぜ?」
「別に無理なんてしてませんから・・・本当に気にしないでください」
バーナビーは、困ったように肩をすくめた。
「僕、これでも今日を楽しみにしてたんですよ?
前々からこの遊園地には一度行ってみたいと思ってたので」
「へえ?」
虎徹は、年下の相棒の意外な言葉に目をしばたいた。
「お前がこういう場所に興味あるなんて思わなかったな」
「この遊園地、僕が子供の頃に計画が持ち上がって話題になっていましてね・・・
完成したら、一緒に行こうねって両親と話してたんですよ。
結局、行けませんでしたけど・・・
だから、誘ってもらえて嬉しいです。こういうことでもないと、来ることなかったでしょうから。
そんなことより、僕なんかが一緒で本当にいいんです?せっかく親子水いらずのところを。
それに、僕のスケジュールのせいで今日になってしまって・・・
楓ちゃんの誕生日、もう過ぎてしまったんでしょう?」
「そんなのはいいんだよ。元々、楓のワガママなんだから。
それに、誕生日には実家で一緒にケーキ食ってプレゼントも渡したし。
だけど、楓ときたら、それじゃダメだって。絶対バーナビーと遊園地行くって聞かなくて。
もうすっかりお前のファンだからさー。 おれなんかより、お前とデートする方がいいんだよ・・・
ああ、小さい頃は『パパのお嫁さんになるー』とか言ってかわいかったのに。
娘なんて、しょせん、よその男のものになっちまうんだ・・・」
「そんなの、まだずっと先の話でしょうに」
自分で喋りながら落ち込んでいく虎徹の姿に、バーナビーは呆れるしかない。
「お父さん!」
少女の元気な声がした。
振り返ると、リュックをしょった女の子が手を振って駆けてくる。
「よく来たな、楓!」
虎徹の顔が父親のものになって、少女の頭をいとおしそうに撫でた。
少女も久しぶりの父親との再会に嬉しそうだ。
「ほら楓、お前にとっておきのバースデープレゼントだぞ」
虎徹に紹介されて、バーナビーはにっこりと微笑んだ。
「楓ちゃん、誘ってくれてありがとう。今日は一日楽しもうね」
「バーナビー!!」
少女の瞳が輝いた。


つづく



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