取材を終えたバーナビーが虎徹の携帯にかけると、まだあの遊園地にいる、と言うので、
バーナビーは急いで戻ることにした。
だが、そんな彼を迎えたのは、虎徹一人だった。
「楓ちゃんは?」
「少し前に駅まで送ってきたとこ」
「すみません、間に合わなくて・・・」
「こっちこそ、忙しいのにすまねえな」
「そんなこと・・・
それより、楓ちゃんを送ったのなら、虎徹さんもそのまま帰ったらよかったのに。
どうして?」
「ここは夜もやってるしな」
虎徹は言った。
「せっかく来たんだから、子供に戻ったつもりで楽しめよ。
お前、何かやってみたいことあるか?付き合うぜ」
虎徹がニッと笑いかけてそう誘うと、なぜだかバーナビーは不審そうな眼差しを寄こしてきた。
「なんだよ?」
その眼差しに気付いた虎徹がきょとんとすると、バーナビーはきゅっと眉をつり上げた。
「もう騙されませんよ」
「はあ?」
「今度はなんですか?
能力が一分ももたなくなったとか?
一時間経っても、発動できなくなってきたとか?
正直に白状してください」
「何も変わったことなんてねえよ・・・お前、いきなり何言ってんだ?」
「しらばっくれても無駄ですよ」
バーナビーが半眼で睨んできた。
「あなたは余計なお節介焼いてかえって人に迷惑かけたりはするけれど、
他人の機嫌を取るようなまねをする人じゃない。
僕が子供の頃に行きたがってた遊園地で、何かやりたいことないか?なんて・・・
そんな風に僕の機嫌を取るようなこと言ってくるなんて、何か後ろめたい気持ちがあるからに決まってます。
もうあの時みたいには騙されませんからね!」
「あの時・・・?」
「とぼけないで下さい」
年下の相棒はぴしゃりと言った。
「あの時・・・僕の家にやって来て、僕に食べさせようとチャーハンを作ってくれたり。
記憶を思い出すきっかけになるかもしれないから、と一緒に街を歩いてくれたり・・・
『早くいつものお前に戻ってほしいんだ』とか言って、やたらと僕に優しくしてくれたでしょ。
あれは、能力が減退しているのを隠したままヒーロー辞めるために・・・
全部、自分が辞めやすくするためのことだったじゃないですか。
今度は何を隠してるんです?
さあ、白状しなさい」
バーナビーは虎徹の両肩をつかんで離さない。
「近い近い近いっ!近えよ、バニー!
ここ、外だぞ?家の中じゃねえんだぞ?
人に見られたらどうすんだ。お前、自分が有名人だって自覚持てよ・・・」
「そんなこと、どうでもいいです。
あの時、あなたの能力が減退してるってことを僕は知らなかったから・・・
僕はあなたを失うところだった。
この手で、僕はあなたを殺してしまうところだった・・・
もう二度とあんな思いはしたくないんです!!」
「お前に隠してたのは、悪かったよ。
けどなー、お前、そんな風に思ってたの?
あの時、おれは本気でお前のこと心配してたんだぞ?
飯食わそうとしたのも、街を一緒に歩いたのも、
別にお前のご機嫌取って誤魔化そうと思ってしたんじゃねえぞ?
ひでえなあ、そんな風に思ってたなんて」
おれ、傷ついちゃったなー、と虎徹は芝居がかった仕草で年下の相棒に目をやった。
こうしてからかってやれば、余計にキレてきゃんきゃん喚くか、呆れた顔をするか・・・
どっちにしろそこを宥めれば、この年下の相棒も冷静になる。
いつものパターンだ。
だが、虎徹の目の前の若者は、怒るわけでもなく、冷めた眼差しを送ってくるでもなかった。
ただ、じっと口唇を噛み締めて、虎徹を見ている。
そのエメラルドグリーンの瞳がかすかに潤んできたのに気付いて、
ようやく虎徹は自分の読みが甘かったことを悟った。
あまり余計なことは言いたくなかったのだが、こうなっては仕方ない。
「能力減退のことは・・・本当はお前に相談した方がいいかなって思ったこともあったんだけどさ。
でも、あの時、両親の仇だと信じていたジェイクの件が片付いて、お前、晴れ晴れとしてたろ?
毎日、楽しそうで。
それ見てたら、おれのことで水差すのもどうかと思ってな。
これ以上、お前の足を引っ張るのも、悪いなって思ってたし」
「水差すとか、足を引っ張るとか・・・何を言ってるんです。
あなたは何も分かってない。何も分かってません!
それで一人残された僕はどうなるんです!?
父さんも母さんも、サマンサおばさんも・・・みんな死んでしまった・・・
僕の大事な人たちはみんな死んでしまうんだ・・・
僕を置いていってしまうんだ・・・
虎徹さん、あなたも・・・
僕は何度一人になればいいの。
何度こんな思いをしなければならないんだ・・・」
エメラルド色の瞳から大粒の涙があふれた。
夢の楽園を彩るイルミネーションの光を受けて、きらきらと宝石のように輝きながら、
白い頬をつたっておちる。
若者は決まり悪そうに顔を伏せ、ごしごしと拳で目の辺りをこすっていたが、涙が止まる気配は一向になさそうだった。
虎徹の前で、肩が小さく震え続けている。
こみ上げる嗚咽を押し殺そうとしている金色の頭に、虎徹はそっと手を置いた。
「・・・ごめんよ、バニー。
お前に何も言わず、勝手に辞めるなんて決めちまって・・・悪かった。
これからは、必ずお前に相談する」
「・・・本当に?」
「ああ」
「約束ですよ?」
俯いていたバーナビーが顔を上げた。
泣きはらしたグリーンアイズでじっと見つめてくる。
「ああ、だからお前も、おれに隠し事するなよ?」
「僕は何も隠したりなんてしてません」
「そうだな、童貞だってことまで教えてくれたくらいだしな」
「・・・だから、いい加減、その話題から離れてくださいよ・・・」
年下の相棒が眉をひそめる。
そんな彼の頭をぽんと叩くと、
「でもお前、今日、すごいムリしてただろ?」
「スケジュールのことはもう――」
「それもあるけど、そうじゃなくてさ。
悪かったな。亡くなった両親のことを思い出させちまって・・・
この遊園地に、そういう思い出があったんなら、言ってくれれば良かったのに。
うちの娘のワガママなんかのために、お前が我慢することなんてないんだから」
「無理なんてしてません」
バーナビーは生真面目な表情で首を横に振った。
「僕は本当に楽しかったですよ。
楓ちゃんと一緒にいると、何だか子供の頃に戻ったような気分になれて・・・
本当ですよ?」
虎徹は何も言わずに、ただ彼を見つめ返すだけだ。
バーナビーは困ってしまう。
「・・・子供の頃の気持ちになって・・・それでかえって思ってしまったことはありますけど・・・
でも、楽しかったのは本当ですからね?
楓ちゃんも虎徹さんも、誰も悪くないです」
「いいから、言ってみ」
若者は気まずそうに俯いた。
「・・・いい年してみっともないと自分でも分かってます。
だから、こんなこと思ってしまう僕が悪いんです」
「いいから」
虎徹に頭を撫でられ促される。
若者は俯いたまま、小さな声で呟いた。
「・・・僕も両親と一緒に来たかったなって・・・
楓ちゃんが羨ましいなあと思って・・・」
「やっと言ってくれたな」
虎徹に抱きしめられて、バーナビーは悲鳴を上げた。
「ちょ、ちょっと虎徹さん!
ここ外ですよっ!家の中じゃないんですからっ!
さっき自分で言ったでしょ!?」
「大丈夫、誰も見てねえよ」
年下の相棒を抱きしめたまま、虎徹は言った。
「この辺誰もいねえし、いたとしても、みんな空を見上げてるさ」
バーナビーが顔を上げると、空には大輪の花が咲いていた。
次から次へと花火が打ち上げられ、夜空に色とりどり花が咲く。
思わず花火に見惚れていると、頬に虎徹の手が添えられた。
「お前は長いこと一人で生きてきたから慣れてないのかもしれないけどな・・・
でも、これからは練習しないと。
自分の心の声に耳を傾けること。その声を無視したり否定しないこと。
そして、そばにいる誰かに伝えること。
そういうことをさ」
「・・・虎徹さんも・・・僕に隠し事しないで下さいね」
「ああ。あの時は悪かった。もう二度としないから」
「本当に悪いと思ってます?
だったら・・・今夜、あなたの家に泊まってもいいですか・・・?」
お、バニーの奴が珍しく積極的だ。
「もちろん」
虎徹が答えると、バーナビーは嬉しそうな笑顔を見せた。
そして――
「はい、じゃあこれ」
ずっしりと重たいものを渡された。
分厚い本だった。
本とはいえ、もはや一冊と数えるよりは、一箱と数えた方がいいような物体だ。
「なに、これ?」
「ヒーロースーツの仕様書です。さっき会社に戻った時に取ってきました」
「え?ちょっと・・・?」
「虎徹さんにはずっとヒーローを続けてほしいって、楓ちゃん言ってましたよ?
僕も、自分にできる限りのことはサポートするって約束しちゃいましたから」
バーナビーは天使の笑顔で答えた。
「ここに書いてあること全部、ちゃんと理解してくださいね。
僕も手伝いますから。
今夜は寝かせませんよ?虎徹さん」
にっこり。
――こいつがおれに甘えてる?
冗談じゃない。
ドSの間違いだろ・・・
To be continued...
おまけ 追加しました!
(蛇足)
19話のことがトラウマになって、虎徹さんに優しくされると疑ってしまうバニーちゃんを書きたかったのです・・・
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